◆区間
白川JCT〜駒栄(9.5km)
◆今後の開通予定
湊川JCT〜駒栄 2026年度開通予定
(5号湾岸線の西伸部と合わせて整備予定)
◆事業費
3,211億円(白川JCT〜湊川JCT)
31号神戸山手線は神戸市長田区から須磨区の北部の山間部を南北に通る路線で、現在、白川JCT〜湊川JCTが供用中です。山間部だけでなく長田区の市街地も地下トンネルとなっており、路線のほとんどがトンネルで構成されています。阪神高速道路のネットワークとしては3号神戸線と7号北神戸線と結びつける重要な路線で、北神戸線とあわせて第二神明道路のバイパス路線的な役割も果たしています。
現在ほぼ全線開通に近い状態ですが、少し南の湊川JCT〜駒栄出入口が未開通で、そのまま阪神高速道路5号湾岸線西伸部との連絡路に直結されます。
現在では7号北神戸線と3号神戸線を結ぶ、神戸市内を『南北』に走る路線として定着していますが、当初は南北よりも『東西』方向を意識した路線として計画されていました。また、将来的には大阪方面へ東伸させて大阪市内の阪神高速第2環状線の放射路線である阪神山手線と接続し、阪神間の山手側に神戸線、湾岸線に続く阪神間3本目の都市高速道路を建設する壮大な構想がありました。
神戸山手線の計画はこの東西方向から南北方向の路線へ役割を転換した事もあり、現在の計画に至るまで何度もルートが変更されています。
現在、神戸長田出入口付近で本線がS字にカーブを描いていますが、本来は北側から山を抜けて、長田で向きを曲げて東へまっすぐす進むはずだったものが、この南北方向に通る路線に役割を変更された為、一旦長田で東西方向に向けられた線形を再び南北方向へ90度曲げた為にこのような線形になっています。恐らくは元から南北方向への路線として構想されていれば、山を抜ける位置なども調整され、このような線形にはなっていなかったかもしれません。
<注意!路線名の記載について>
下記に神戸山手線計画の変遷について簡単にまとめておりますが、路線の名称については、「高速道路神戸2号線」だったり「神戸市道高速道路2号線」だったりバラバラです。図の記載については参考にした資料に記載されていた名称を記載していますが、資料も正式名称で記載してくれているのか微妙なところで、だいたい合ってるという感じでお受け取り下さい。また、名称バラバラでは分かりにくいため、こちらの文面では概ね「神戸山手線」と記載しています。
◆神戸山手高速道路技術委員会 昭和44年答申 第1次計画案
昭和45年12月に神戸市に「山手高速道路技術委員会」が設置され、当時建設中だった阪神高速神戸線(当時は神戸西宮線と呼ばれていました)の他に、東西方向の交通の機能分担をする路線として市街地山手に都市高速道路を建設する計画案が検討されました。これが現在に至る神戸山手線計画の始まりで、『神戸'山手'線』という名称の由来でもあります。
この阪神間の山手側東西方向に都市高速道路を整備する構想は以前にもあり、阪神高速道路公団が設立される前には、阪神地区高速道路協議会にて、神戸山手線とは異なる計画ですが『阪姫線』という名称の路線として計画案が出された事があります。この阪姫線は『31号神戸山手線建設誌』によると、阪急神戸線沿線の未整備市街地の再整備をねらった区画整備の起爆剤としての側面があったようで、概ね阪急神戸線沿いへの整備を想定されていた模様です。
山手高速道路技術委員会による昭和44年答申の第1次計画案では、須磨区高倉から山間部を通って長田区蓮池町(現在の神戸長田出入口)に出て、山手幹線に高架道路を建設して市街地を東西に貫き、深江付近に至るものでした。途中の原田で山側を阪急神戸線沿いを通るルートと分岐していますが、恐らくは建設用地の関係から東行きと西行きを分けたものだと推測されます。この上下線をセパレートにする方法は次に出される第2次計画案でも別の区間で使われています。将来構想としては、深江からさらに東へ延ばして、現在の3号神戸線と共に山手沿いに阪神間を結ぶルートになるものでした。
◆神戸山手高速道路技術委員会昭和45年答申の第2次計画案
この神戸山手線の計画が審議されていた頃は、全国的に公害などの環境問題が課題となっており、山手幹線沿いの商店などから神戸市議会に陳情や請願が出され見直しをする事となりました。そこで昭和45年秋に答申されたのが第2次計画案です。
この第2次計画案では、長田〜三宮付近の区間を西行きと東行きでルートを変え、東行きを湊川沿いに少し山側を通るルートにし、西行きは山手幹線を通る計画としています。この答申から阪神高速道路公団で昭和46年度に高倉〜長田(長田区蓮池町)〜原田が、昭和47年度に白川(須磨区車)〜妙法寺が予算採択されて計画路線となりました。
↑長田〜三宮付近は山側が東行き、海側が西行きとなっています。
※この2手にルートが分かれる事については資料では方向別に分かれているのか、両方とも東西方向へ通れるのか記載されてない事が多かったのですが、「昭和47年度通常予算に関する大阪市会計土木委員会第3回(昭和47年3月15日)会議録」で高速道路問題についての質疑の中で、神戸山手線の昭和45年秋答申の第2次計画案の内容説明があり、そこで「湊川沿いの東行き2車線とセパレートするという案が検討された」と記録がありましたので、上の図では山側(湊川沿い)を東行き、海側を西行きとして記載しています。
◆昭和47年の都市計画決定
第2次計画案についても、西行きのルートとなる湊川沿いの沿線住民などから神戸市議会へ建設反対の請願が出され、市議会では公害が起こり得るもにのついてはルート変更、その他公害がないように再検討する必要があるということで、反対の請願が採決されました。しかし、開発が進んでいる須磨ニュータウンと市街地を結ぶ長田〜白川・長田については事業化の手続きを進めることになり、この区間については都市計画が決定され、長田より東について市議会等の意見を尊重して検討するという事になりました。
その後神戸山手線を役割について再検討がされ、昭和48年の近畿地区幹線道路協議会では、本来東西方向への交通需要に対応した路線として計画されていた神戸山手線の役割を、当時背山道路と呼ばれていた現在の7号北神戸線と、臨海部に計画中だった現在の5号湾岸線に代替させ、神戸山手線はその路線と一体となり南北方向の交通需要に対応する路線へと役割を変える事が提案されました。
◆平成2年の南北延伸の都市計画決定
神戸山手線が南北方向への交通需要に対応する路線となり、都市計画が決定していた区間よりもさらに南北への延伸させ、北へは北神戸線、南へは神戸線や湾岸線方面への延伸が検討され、昭和49年に北神戸線とあわせて都市計画を決定させる方向で議論が進んでいました。しかし、都市計画決定済みの白川・高倉〜長田について建設反対の要望が相次ぎ、「高速2号再検討専門委員会」が設置されて議論される事となり、この状況下で延伸計画を進める事は、神戸山手線の計画自体に重大な影響を与える事が懸念され、当面見送られる事になりました。尚、都市計画が決定された北神戸線については、建設当初からまだ都市計画に入っていなかった神戸山手線との白川JCTの準備工事がされており、JCTの北神戸線の明石方面→神戸山手線の連絡路で北神戸線の下を潜るカルバートボックス(北神戸線の本線を潜るアンダーパスの部分)は北神戸線建設時に既に用意されていたものです。
昭和58年には都市計画決定済みの白川・高倉〜長田間について検討を行っていた「再検討委員会」で神戸山手線計画の必要性が認められ、一部工事に着手する事になりました。
見送られていた南北への延伸については、昭和63年に「明石海峡大橋関連地域整備計画」にて神戸山手線が関連道路に指定され事で南北延伸部の計画が提案されることとなりました。平成2年にこの南北延伸の都市計画が決定され、現在の31号神戸山手線の全線が都市計画決定となりました。
前述の神戸山手線計画の変遷での少し触れましたが、神戸山手線は最初の計画が提案された昭和40年代当時の環境問題に敏感であった社会情勢もあり、都市計画が決定したにも関わらず、神戸市で市長の諮問機関として「高速2号線再検討委員会」を昭和50年4月に設置して審議する事になりました。
このように車の排ガス・騒音等の公害を懸念した高速道路に対する反対運動で計画の進行が止められた事例はこの神戸山手線だけでなく、ほぼ同じ時期に大阪で計画を進めようとしていた阪神高速高槻線(第2環状線)、阪神高速泉北線でも起きていました。大阪地区のこの2件は、大阪府公害審査会という当事者間(反対者と阪神高速・大阪市などの行政)で話し合いを行う場を設けて妥協案を探るようなものでしたが、結局は両者の意見に合意が見られず、打ち切りとなりました。対して、神戸山手線で設けられた「高速道路2号線再検討委員会」は、委員(地元・市が推薦した11名の学識者)、特別委員(地元代表3名と市職員3名)、専門委員(気象関係者や風洞実験関係者の3名(昭和57年当時))にて検討を行うもので、こちらは昭和58年に結論を出しておりその答申内容は下記の通りです。
昭和58年9月19日の高速道路2号線再検討委員会の答申内容
〜答申内容〜
@高速2号線は必要である。
A騒音、二酸化窒素については、環境上何らかの配慮が必要である。
B建設、運営にあたっては、答申の趣旨が十分に反映されるよう要望する。
(阪神ハイウェイ75号 昭和58年12月5日発行 より抜粋)
同時期に計画された他の大阪の路線が暗礁に乗り上げる中、神戸山手線が開通まで辿り付けた要因として言えるのが、独自の委員会で環境調査等を行った事が大きいのではないかと思います。この手法は、現在高速道路等を建設する際に行われるPIプロセスにも似ており、時間はかかりましたが結論を出した事で、大阪の2件のように大きく計画を変更したり廃止したりすることなく開通する事が出来たのではないでしょうか。特に、神戸山手線が計画された当時は、事業者や行政が高速道路計画の重要性や必要性をしきりに訴えていた事が多く、そこで何とか地元を説得して建設を進める方法がよくとられていたようですが、その中で神戸山手線は神戸市で学識者や地元代表を含めた独自の委員会で検討を行い、懸念される点について環境調査や騒音調査等の検証を重ねて建設するかどうかの決断や、建設の条件(環境への配慮等)を出した点で、現代の高速道路建設手法に近い先進的なものだったと思います。
31号神戸山手線には、現在の白川南JCT〜湊川JCT以外にも妙法寺付近で分岐して、須磨区高倉台で第二神明道路に接続する分岐線の計画が残っています。神戸山手線の当初の計画からある区間ですが、神戸山手線建設事業誌(2009年6月発行)のP7「2.1路線の全体概要」記載によると、「この分岐線は社会情勢が交通需要の動向を勘案し事業実施を見合わせていた」という事で、公団の民営化以前より見合わせていたようです。その後の民営化では「平成18年3月に締結された(独)日本高速道路保有・債務返済機構と阪神高速道路株式会社との協定において、会社が新設する高速道路区間から除外された。」(神戸山手線建設事業誌より抜粋)という事で、阪神高速道路として建設する道路ではなくなっています。
また、阪神高速道路公団ではこのような本線から分岐するような将来計画路線がある場合は、分岐予定部分などを本線建設時に施行する事がありますが、この神戸山手線の分岐線では、本線からの分岐部分の施工どころか分岐線自体を考慮せずに建設されています。神戸山手線建設事業誌(2009年6月発行)P291によると、分岐線を考慮すると長田トンネルの勾配がきつくなる為、将来の技術進歩に期待するという事で、分岐を考慮せずに行ったという主旨の記載がありました。
さらに、この分岐線についてはまだ神戸市の都市計画図に記載がありますが、「湾岸線と機能が重複、交通需要が見込めない」(みちづくり計画 神戸市 平成23年5月発行より抜粋)とされており、阪神高速道路での建設も神戸市での事業化も可能性は現時点ではかなり低い状況です。
しかし、念願の5号湾岸線の延伸が事業化された事で状況が変化しつつあります。5号湾岸線は六甲アイランドからミッシングリンクとなっていた32号神戸山手線と接続する駒栄までの延伸が事業化されはしましたが、第二神明と接続する名谷までの全線事業化には至らず、未定どころ途中までしか事業化されなかった事で見通しがかなり不透明になってしまったと言えます。何故なら今回の湾岸線延伸ですら事業費5000億円という国家プロジェクト級とも言える金額になっており、数十年以内に名谷までの区間に対してさらに数千億円が投入されるとは思えません。ですが、第二神明道路と行き来する交通を3号神戸線ではなく、出来るだけ湾岸線に流すには、今のような山一つ向こうにある7号北神戸線経由の大回りなルートではなく最短で湾岸線へ接続するルートが必要です。
そこで可能性があるのがこの分岐線です。都市計画済みで建設するなら全線がほぼトンネル、距離も2.3kmと短いうえに分岐線自体は用地買収も最小限で済みそうです。対して湾岸線の名谷までの延伸は距離もある他に須磨海岸をトンネルで通すなど、水底(海底)トンネルや海岸部の高架道路など、景観、工事、技術など多方面で難所が待ち構えており、長期間の準備と工事、さらに事業費が数千億を超えるのは間違いありません。
神戸市では前述の通りこの分岐線に対しては「湾岸線と機能が重複、交通需要が見込めない」という位置づけをしていますが、湾岸線名谷延伸が無ければ機能が重複することはなく、交通需要が見込めるという事になります。西方で第二神明道路と接続する見込みの播磨臨海地域道路が現実味を帯びており、3号神戸線への流入交通量が増えるとなると湾岸線名谷延伸についても事業化を検証する必要があり、その中でこの分岐線が比較対象として出る可能性があります。実際に事業化された湾岸線の駒栄までの延伸部は、高架道路のハーバーハイウェイを拡幅して都市高速道路へ改造する案や、海底トンネルで建設する案との比較の中で現在の橋梁と高架道路構造で建設する案に決定しており、そいういったプロセスの中で神戸山手線の分岐線が比較される事になれば、事業化の可能性が出てきます。
5号湾岸線はついこの間事業化が決まったところで、名谷延伸の話が出るのはまだ先かもしれませんが、その際にこの分岐線についても最終的な要(建設)・不要(廃止)を決める事になりそうです。
神戸山手線建設事業誌の「表-3.1.2年度ごとの事業費」より、各年度の神戸山手線の事業費を記載しております。
◆阪神高速道路公団 昭和46年度事業費
神戸山手線 予算:約1億円
☆須磨区高倉台〜長田区蓮池町〜灘区原田の13.6km
◆阪神高速道路公団 昭和47年度事業費
神戸山手線 予算:約1億円
☆須磨区高倉台〜長田区蓮池町〜灘区原田の13.6km
☆上記に加えて 須磨区妙法寺〜須磨区車2.5kmを追加
◆阪神高速道路公団 昭和48年度事業費
神戸山手線 予算:約7億9千万円
◆阪神高速道路公団 昭和49年度事業費
神戸山手線 予算:約38億円
◆阪神高速道路公団 昭和50年度事業費
神戸山手線 予算:約8億円
◆阪神高速道路公団 昭和51年度事業費
神戸山手線 予算:約14億円
◆阪神高速道路公団 昭和52年度事業費
神戸山手線 予算:約1億9千万円
◆阪神高速道路公団 昭和53年度事業費
神戸山手線 予算:約3億8千万
◆阪神高速道路公団 昭和54年度事業費
神戸山手線 予算:約5億円
◆阪神高速道路公団 昭和55年度事業費
神戸山手線 予算:約3億円
◆阪神高速道路公団 昭和56年度事業費
神戸山手線 予算:約5億円
◆阪神高速道路公団 昭和57年度事業費
神戸山手線 予算:約3億8千万
◆阪神高速道路公団 昭和58年度事業費
神戸山手線 予算:約20億7千万
◆阪神高速道路公団 昭和59年度事業費
神戸山手線 予算:約29億円
◆阪神高速道路公団 昭和60年度事業費
神戸山手線 予算:約26億円
◆阪神高速道路公団 昭和61年度事業費
神戸山手線 予算:約26億円
◆阪神高速道路公団 昭和62年度事業費
神戸山手線 予算:約34億円
◆阪神高速道路公団 昭和63年度事業費
神戸山手線 予算:約27億円
◆阪神高速道路公団 平成元年度事業費
神戸山手線 予算:約36億円
◆阪神高速道路公団 平成2年度事業費
神戸山手線 予算:約31億円
◆阪神高速道路公団 平成3年度事業費
神戸山手線 予算:約53億円
◆阪神高速道路公団 平成4年度事業費
神戸山手線 予算:約148億円
◆阪神高速道路公団 平成5年度事業費
神戸山手線 予算:約224億円
◆阪神高速道路公団 平成6年度事業費
神戸山手線 予算:約353億円
◆阪神高速道路公団 平成7年度事業費
神戸山手線 予算:約390億円
◆阪神高速道路公団 平成8年度事業費
神戸山手線 予算:約237億円
◆阪神高速道路公団 平成9年度事業費
神戸山手線 予算:約171億円
◆阪神高速道路公団 平成10年度事業費
神戸山手線 予算:約236億円
◆阪神高速道路公団 平成11年度事業費
神戸山手線 予算:約260億円
◆阪神高速道路公団 平成12年度事業費
神戸山手線 予算:約271億円
◆阪神高速道路公団 平成13年度事業費
神戸山手線 予算:約317億円
◆阪神高速道路公団 平成14年度事業費
神戸山手線 予算:約344億円
◆阪神高速道路公団 平成15年度事業費
神戸山手線 予算:約84億円
◆阪神高速道路公団 平成16年度事業費
神戸山手線 予算:約45億円
◆阪神高速道路株式会社 平成17年度事業費
神戸山手線 予算:約26億円
◆阪神高速道路株式会社 平成18年度事業費
神戸山手線 予算:約40億円
◆阪神高速道路株式会社 平成19年度事業費
神戸山手線 予算:約60億円
◆阪神高速道路株式会社 平成20年度事業費
神戸山手線 予算:約96億円
◆阪神高速道路株式会社 平成21年度事業費
神戸山手線 予算:約74億円
◆阪神高速道路株式会社 平成22年度事業費
神戸山手線 予算:約49億円